Twigs of Life

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ナメクジウオゲノム

ナメクジウオゲノムが解読されたので、概要をご紹介します。
新聞やTVでも取り上げられていたのでご覧になった方も多いと思います。

1970年に大野乾という日本人研究者が、無脊椎の脊索動物から脊椎動物に至る過程で2回遺伝子重複が起きており、それが大きな進化の原動力となったという説を提唱しました。

さて、大野博士の説が正しいとなると、ヒトの遺伝子は10万以上だと予想されます。
しかし、実際にはヒトゲノムプロジェクトの終了とともに、2万から2万5000しかないことが明らかになりました。
したがって二回重複が起きた後、相当数の遺伝子が失われたことになります。

ナメクジウオゲノムによりこの説の妥当性が強く支持され、また論争の続いていたホヤとナメクジウオと他の脊椎動物の進化上の位置関係に決着がつきました。

ナメクジウオ (larncelet or anphioxus) は脊索動物門の頭索類 (cephalocordate) に属する無脊椎動物で、日中は砂中から頭だけ出して植物プランクトンをろ過摂食し、夜になると体をくねらせて泳ぎます。
(anphioxusはギリシャ語のamphi+oxysで「両端の尖った生物」を意味します)

また、ホヤ (sea squirt or ascidian) は同じく脊索動物門の尾索類 (urochordate) です。ホヤ貝と呼ばれることもあるのですが、軟体動物の貝とは関係ありません。ホヤ成体は脊椎動物とは似ても似つかない姿をしていますが、孵化直後はオタマジャクシのような姿をしており(オタマジャクシ幼生)尾を振って泳ぐことができます。やがてオタマジャクシ幼生は岩などに接着し、成体に変態します。

ホヤのオタマジャクシ幼生、ナメクジウオともに脊索を持つため、種の起源の出版から数年後にはアレクサンダー・コワレフスキー (Alexander Kowalevsky) と言う発生学者により脊椎動物との類縁関係が指摘されていました。ダーウィンもホヤのオタマジャクシ幼生と脊椎動物の類似性に気づいており、コワレフスキーの詳細な観察を知って喜んだと言われています。また、発生学の国際的な賞にコワレフスキー賞というのがあり、そのメダルには彼の顔が刻印されています。

今回ゲノムが解析されたのはフロリダナメクジウオ (Branchiostome floridae) で、すでにゲノムが読まれているホヤと脊椎動物のゲノムとの比較が行われました。

ヒトとナメクジウオはおよそ5億5000万年前に共通祖先から分岐したと考えられており、ナメクジウオは共通祖先の代理として利用可能、つまり、脊椎動物のゲノムがどう進化したかを理解するのに役立と考えられています。

ヒトの23対の染色体とナメクジウオの19対の染色体を比較し、遺伝子の並びから祖先種の遺伝子の並びを再構築すると、祖先種のゲノムは17個のユニット(染色体と考えて差し支えないでしょう)からなっていたことが示唆されます。

さて、両者のゲノム構成から、進化の過程を再構築してみましょう。
祖先種のゲノムはナメクジウオとホヤの系列が分岐した後まるごと二回重複し、その後、ほとんどのハウスキーピング遺伝子の余剰コピーが消失、残った数千の遺伝子は余剰コピーを完全には失わず、それらの遺伝子は新しい機能を持つ、あるいは新しい転写調節を受けるようになって、ナメクジウオと脊椎動物を全く異なる生物にしたと考えられます。
すなわち、ヒトゲノム計画の始まるはるか以前に提唱された大野の説が強く支持されます。

遺伝子重複により遺伝子のセット数が増えた状況は、進化の強力な原動力になります。
もし、一つしかない重要な遺伝子が変異してしまうと、それは致命的な結果を引き起こす可能性が非常に高くなります。しかし、重複により同じ遺伝子が二つできれば、一方がもとの機能を保ち、もう一方が比較的自由に変異することができるため、いわばゲノムに「遊び」ができます。結果として、新しい機能を獲得した遺伝子群により脊椎動物はより細かく多彩な指示のもので体を形成できるようになったと考えられます。

また、ホヤでゲノム解析が終了しているカタユウレイボヤ (Ciona intestinalis) は非常に単純なボディープランを持つことから脊索動物の最も早い系列であると考えられていました。遺伝子配列を用いた系統学的な解析でも、ホヤの方がより原始的であるという研究もあり、論争になっていました。

しかし、ナメクジウオとヒトゲノムとの比較から、ナメクジウオの系列の方が先に分岐したことが示されました。ゲノムを比較することで、遺伝子の塩基配列だけでなく、染色体上の遺伝子の並び順や、エキソンとイントロンの構成、そしてタンパク質をコードしていない塩基配列の保存性も重要な手がかりとして用いることができたのです。

比較の結果、ホヤでは共通祖先から分岐した後に遺伝子の消失によるゲノムのコンパクト化、イントロンの脱落、ゲノムの再構成が起きたと考えられます。

これで150年に渡る脊索動物門の枝の根元に関する論争は終結しました。
以下にこれまでの研究から支持される進化のストーリーをまとめます。

少なくとも5億5000万年前のカンブリア紀には生きていたナメクジウオに似た生物は3タイプの脊索動物に分岐しました。最初にナメクジウオなどの頭索類、続いてホヤなどの尾索類、我々を含む脊椎動物です。
ナメクジウオゲノムはヒトゲノムとの保存性が比較的高いので、祖先種のゲノム構成を比較的良く保っていると考えられ、一方ホヤはよりコンパクトなゲノム構成に進化しました。
ナメクジウオとホヤが共通祖先から分岐した後、脊椎動物が分岐する前に全ゲノムが二回重複し、ほとんどの遺伝子は消失したものの、数千の遺伝子は余剰コピーが残り新たな機能を獲得、脊椎動物の進化に貢献したと考えられます。

さてもう一つ、海産動物のゲノム解析が進んだことでわかった面白いことがあります。
二匹のナメクジウオのゲノムを比較するとなんと6%、平均して16塩基毎に一塩基という高頻度で違いがあるのです。二匹のウニではこの違いはさらに大きくなります。
つまり、人種の違いどころかヒトとチンパンジーよりも、二匹のナメクジウオ間の方が塩基配列の違いの割合が大きいのです。

ヒトという種は極端に遺伝的な多様性が低い動物のようです(二個体間の差異は平均で1000塩基に1塩基、0.1%程度)。これは、ヒトが一度絶滅寸前にまで数を減らしたことによって遺伝的な多様性が大きく失われた(いわゆるボトルネック効果)ためであるのでしょう。

また、情報をコードしていない領域の塩基が多少違っても普通大きな影響は出ないけれども、変異の起こる場所によっては一塩基の違いが遺伝子の働きを完全に変えてしまうこともあるので、違う塩基の割合でゲノムを眺めても仕方がないということもあるでしょう。

それにしても、2%の違いがヒトとチンパンジーを隔て、6%の違いでも二匹のナメクジウオはやはりナメクジウオというのはなんとも不思議な感じがしますね。

参照元
http://www.biologynews.net/archives/2008/06/18/
genome_sequence_of_lancelet_shows_how_genes_quadrupled_during_vertebrate_evolution.html

The amphioxus genome and the evolution of the chordate karyotype.
Nature. 2008 Jun 19;453(7198):1064-71.

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円から線へ

原核生物のほとんどは環状ゲノムを持つけれども、真核生物は線上のゲノムを持ち、しかもそれは何本もの染色体に分かれるというふうに断片化されています。
また、原核生物の遺伝子にはあまりないイントロンが、真核生物の遺伝子には非常に大量に存在しています。

この劇的な変化はどのように起こったのでしょうか。

End-replication problemの克服

あるとき原核生物の環状ゲノムが何らかの事故で切断されたとします。
これでゲノムは線上になるのですが、次に起こることはそれほど単純ではありません。
直線状のDNAには複製の際に“End-replication problem”とよばれる特有の問題が生じるからです。

end-replication-problem.jpg


DNAポリメラーゼは5’→3’方向にしか塩基を重合させることができません。
5’→3’方向へ伸ばすリーディング鎖は末端まで複製可能です。
一方、3’→5’方向へ伸ばすラギング鎖は、岡崎フラグメントと呼ばれる足場を前に前に結合させ、そこから逆方向に複製します。
つまり、ラギング鎖は破線状に足場を置くことでしか複製できないため、完全に末端まで複製することができないのです。
これを放置しておくとDNAを複製するたびに鎖が短くなり、いずれは必要な遺伝子が削られて細胞が死んでしまうでしょう。

これを回避するためには、環状のDNAを持つか、末端に塩基を継ぎ足していくしかありません。

そして、線上ゲノムを持つ場合には後者を選ぶしかありません。
この継ぎ足されていく末端配列が有名なテロメアです。
我々はテロメラーゼと呼ばれる酵素で末端を修復していますが、直線状ゲノムを持つ最初の生物は当然テロメラーゼを持っていなかったはずです。
この疑問に対するヒントはキイロショウジョウバエから得られます。

ショウジョウバエのテロメアはテロメラーゼではなく、レトロエレメントと呼ばれる特殊な塩基配列によって修復されることが分かっています。
レトロエレメントとはレトロトランスポゾンとも呼ばれ、本来はいわゆるSelfish DNAで、生物のDNAの中を勝手に動き回る配列です。
レトロエレメントは転写され、mRNAとなり逆転写酵素の働きによりゲノムに挿入されます。このときもとの配列はそのままで、移動先に新しいレトロエレメント配列ができるので、移動方式はコピーアンドペースト形式であると言われます。
ちなみに、もう一つトランスポゾンと呼ばれる移動する配列があり、これは自分をもとの位置から切り出して、新しい場所に挿入するのでカットアンドペーストです。

ここからは仮説ですが、環状ゲノムの開裂によるストレスによる内在性レトロエレメントの活性化、あるいは原始真核細胞に共生を始めたミトコンドリアや葉緑体の祖先である原核生物ゲノムに含まれていたレトロエレメントの移動などにより、原始真核生物のゲノムは非常に不安定化した可能性があります。

本来この状況は破壊的で、我々の祖先の数は急激に減少したことでしょう。
ところが、レトロエレメントのランダムなジャンプは意外な副産物を残します。
線状になったゲノムの端にペーストされた場合、End-replication probremに対して束の間の猶予が与えられるのです。
そのため、ゲノムの攪乱を生き延びた一部の真核生物の中では、線状になったゲノムの端に選択的にペーストされるレトロエレメントが選択されていきます。
テロメアの誕生です。

また、このレトロエレメントのジャンプは同時にイントロンも生み出したと考えられます。
それは次の機会に。

参考文献
Villasante A, Abad JP, Méndez-Lago M.
Centromeres were derived from telomeres during the evolution of the eukaryotic chromosome
Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Jun 19;104(25):10542-7

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染色体数の変化と交配の障壁3


染色体数の変化と交配の障壁
染色体数の変化と交配の障壁2の続きです。



交配の障壁

意外なことに、染色体数の違い自体は種間の交配の障壁にはなりません。
例えばウマ科の動物であるウマとロバを見てみましょう。
家畜化されたウマは64本、ロバは62本の染色体を持ちますが、
両者は繁殖して子孫としてラバを残すことが可能です。
ラバでは63本の染色体を持つことになります(ウマの染色体の一つがペアになれずにあぶれるわけです)。

また、野生のヤマシマウマは32本の染色体を持ち、ウマの最後の野生種であるプルツワルスキーウマ (Przewalski’s Horse、モウコノウマ) は66本の染色体を持ちます。
しかし、これらのウマ科の動物(家畜化されたウマ、ロバ、ヤマシマウマ、野生のウマ)は相互に交配しハイブリッドを作ることが可能です。
ただし、これらのハイブリッドのうちただ一つを除いて繁殖能力を失ってしまいます。
これは染色体数の違いにより引き起こされると考えられてきましたが、野生のウマ(66本)と家畜のウマ(64本)のハイブリッドは65本の染色体を持つにもかかわらず繁殖能力を持ちます。
ここから、明らかに単に染色体の数以外の何かが種間交配の障壁となっていることがわかります。

実は、染色体は例え2つ以上のセントロメアが関与することになっても、まだペアを作ったり、相同組み換えを起こしたりすることができます。
下図のペアになった染色体のうち、上側の二つの染色体は野生のウマの66本の染色体に由来し、下側の一つは家畜のウマの64本の染色体に由来すると考えてもいいでしょう。
pairing.gif

もしこれが可能なら、64本、65本、66本の染色体を持つハイブリッドがそれぞれ育ち、いずれは染色体数の違いが生物学的な違いを増強し(馬とロバの違いのように)て、その結果、いずれ種間交配の障壁が生じる可能性もあるでしょう。

参考文献
Chandley AC, Short RV, Allen WR.
Cytogenetic studies of three equine hybrids
J Reprod Fertil Suppl. 1975 Oct;(23):356-70



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染色体数の変化と交配の障壁2

染色体数の変化と交配の障壁からの続きです。



2. 転座 (Translocation)

減数分裂時に染色体ペアが複製されるときには、相同組換え、あるいはクロスオーバーと呼ばれる染色体ペア間のパーツの交換が起こります。
組み換えの場所は決まっていません。(起こりやすい場所と起こりにくい場所があります。)

translocation.gif


一方、本来ペアでない染色体がペアを作って断片を交換することがあり、この現象を転座と呼びます。
交換された断片が十分に大きければ、一方の染色体にほとんどの断片が乗ってしまうことがあります。
下図をご覧ください。黒い点はセントロメアを表します。

translocation2.gif


このように非常に大きさの異なる二つの染色体が生じる可能性があります。
結果として、大きい方の染色体がほとんどの遺伝情報を持ち、小さい方がほとんど持たないことになります。
この例ではある染色体から別の染色体に遺伝情報が移動した、あるいは転座したことになるわけです。
このように劇的な例では、生じた小さい方の染色体は遺伝情報をほとんど持たないためになくなってしまうことが多く、結果的に染色体数が一つ減ることになります。

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染色体数の変化と交配の障壁

生物種によって異なった数の染色体を持っている場合があります。
一方、一般に染色体数の異なる動物同士は交配できないと考えている人は多いでしょう。
つまり、染色体の数が変化した個体が生まれた場合、
その個体は子孫を残すことなく系統がそこで途絶えてしまう気がします。

進化の過程で染色体の数が変わるという事実はどう説明されるのでしょう?

その話の前に、少し基本をおさらいします。
染色体はDNAと核タンパク質の複合体で、我々ヒトは44本の常染色体と2本の性染色体
合計で46本の染色体を持ちます。

染色体のセット数を倍数性 (ploidy) と呼び、
各染色体を二つずつ持っている場合は二倍体 (diploid) 三つずつなら三倍体 (triploid) 、
以下、四倍体 (tetraploid) 〜、という具合に続きます。
一セットしか持たない場合は一倍体、あるいは半数体 (haploid) です。

近縁な二種を比べて染色体数が異なる場合、その二種からだけでは共通祖先からの分岐後に、一方が新たに染色体を得たのか、それとももう一方が染色体を失ったのか判断するのは困難です。
つまり、同じ共通祖先から分岐した多数の種類を比較して、最も多くの種類に共通する染色体数が共通祖先の染色体数だと推測する必要があるのです。

例えばヒトは23セット46本の染色体を持ちますが、チンパンジーは24セット48本の染色体を持ちます。これだけではヒトで減ったのか、チンパンジーで増えたのかわかりませんね。
ここで近縁種を眺めてみると、ゴリラ、オランウータンはともに24セット48本の染色体を持ちます。
このことから、ヒトとその他の霊長類の共通祖先は48本の染色体を持ち、
ヒトは共通祖先から分岐した後に、独自に一本染色体数を減らしたと考えられます。
これについてはまたいずれ。

1.染色体不分離

複雑な真核生物が繁殖する際には配偶子(精子と卵のこと)と呼ばれる特殊な細胞が作られます。
配偶子は他の細胞の半分の染色体数、つまり他の細胞が二セット持っている染色体を一セットしか持ちません(つまりhaploid)。
配偶子を作る際に、染色体数を半減する特殊な細胞分裂が減数分裂です。
配偶子は融合し、精子と卵が持つ一セットずつの染色体が合わさって
新たに二セットの染色体を持つ受精卵となります。

減数分裂により染色体を分配する際に、稀に一セットの染色体が分離に失敗することがあります。
これが起こるとある配偶子が過剰の染色体を持ち、別の配偶子が持たないということが起こります。
これが染色体不分離です。
精子がある染色体の分離に失敗した場合、通常の卵との受精で生じる配偶子は、
本来2つしか持たないはずの染色体を3つ持つことになります。

通常、染色体不分離による過剰の染色体を持つことは致命的です。
しかし、数十億年の間には生き延びて新たな遺伝子を活用することに成功したものもいたでしょう。
ちなみに、これは異なる染色体数の誰と交配可能なのかという問いには答えておらず、それについては後述します。

染色体数を増加させる別の方法には全ての染色体を倍加するというケースもあり、
いわば全ゲノムの不分離です。
これは植物では機能する場合が多いのですが、動物ではごくごく稀にしか起こりません。
しかし、四倍体、六倍体の昆虫、三倍体、四倍体、六倍体の魚(ナマズやコイなどの一種)、
また、四倍体のカエル、さらには四倍体のラット (Tympanoctomys barrerae) などの例が知られています。

ちなみにこの四倍体のラットの染色体数は102であり、他の近縁のラットの染色体数は56です。
つまり、四倍体ラットの染色体数は予想される染色体数112よりもだいぶ少ないことになります。
これを踏まえて次の染色体数変化メカニズムに進みましょう。

続く

なお、この話題は
http://www.madsci.org/posts/archives/2001-05/989331026.Ev.r.html
を訳してわずかに改変したものです。
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